wisewayのblog

このブログは、少し賢くなりたい賢く生きたい、という希望を持って始めるブログです。 賢く生きる方法を探究するために、関連する書物や記事を読んでまとめていきます。

2021年01月

やってのける:第8章

ひきつづき、ハイディ・グラント・ハルバーソン著『やってのける:意志力を使わずに自分を動かす』を紹介します。原題は、“SUCCEED:How We Can Reach Our Goals” です。直訳すれば、「成功:目標を達成する方法」です。

第8章 地道に壁を超える-さまざまな障害物を知る

「目標を達成できないのは、何をすべきかを知らないから」ではなく、「行動」のための障害物があるからです。「忙しすぎる」「目標に合わないアプローチを用いてる」「目標がほかの目標と競合している」「行動を先延ばしする」、などなど。
本章では、これらの障害物陥りやすい落とし穴についてみていきます。

選択肢が多すぎて「行動のチャンス」を逃す
目標達成のためには、強い意志や決意は大切ですが、それだけで望む成果が得られるとは限りません
その理由の一つは、行動のタイミングを逃すことです。一日の中には、行動の機会がたくさんありますが、選ぶべき行動が多いため、迷いが生じ、せっかくのチャンスを逃すのです。
他の理由としては、目標達成までの過程が必ずしも楽しいわけではないので、頭ではわかっていても後回しにしたくなることです。嫌と感じていなくても他の行動に注目し、チャンスを逃すこともあります。要するに「重要度の低い目標に没頭する」「些細なことに気を取られる」「優柔不断で行動に踏み切れない」などの障害物があるのです。

脳が無意識に「シールド」をつくる
誘惑から身を守るために登場するのが、「自制心(セルフコントロール)」です。しかしこの自制心も、つねに元気いっぱいとは限らないので、肝心な時に不足することもあります。そんな場合、脳内で無意識に生じる防御機能があり誘惑物を遮断するシールドの働きをしますが、それは防ぐべき対象を誤ることもあるので要注意です。

「他の目標」が邪魔をする
複数の目標があれば、その達成のために時間を捻出することが難しくなります。どうにか時間を捻出したり、同じ性質の目標は同時に目指すことができますが、性質が矛盾していると、問題が生じます。海外旅行と自宅でくつろぐ、ダイエットとおいしいものを食べる、などなどは競合しお互い矛盾します。
このような場合、脳はどちらか一つを「抑制」することで、一方の目標をシールドし、他方のものを不活性化します。
相反する目標の間に生じる葛藤への対処策は、「明確な計画を立てること」です。これは次章で詳述します。

「現状を知る」ことを避けてしまう
目標のどれだけ近づいているかがわからなければ、ゴールに到達できません。フィードバックがなければ、モチベーションシステムは作動しません。脳は、目標と現在地の差を埋めるという単純な原則に従ってゴールを目指します。
フィードバックは、教師や上司、ウェブのアクセスなど、外からもたらされる場合がありますが、自発的なものでなければ効果が低下します。
自己監視は、自発的に現状を知り困難な目標に取り組むためには不可欠ですが、わたしたちはさまざまな理由からこれを怠ります。一度走り始めたら、そのまま走り続けた方が楽だと感じる傾向があるのです。ネガティブなフィードバックに直面しなければならないことも、自己監視をおろそかにする理由の一つです。

「効果の低い努力」を繰り返してしまう
私たちが目標達成の過程で犯すさまざまな過ちは、二つのカテゴリーに大別できます。
一つ目は、何をするかをわかっていながら、行動が不足していることで、心理学ではこれを「制御不足」と呼ぶそうです。目標の達成においてこの問題は一般的で、対処法は次章で注目します。
二つ目は、効果の低いアプローチを選んでしまうことで、心理学では「誤制御」と呼んでいるそうです。この点に関しては、最善のアドバイスは、「自己監視をしっかり行うこと」です。手遅れにならないように、自分のパフォーマンスを把握することです。

能力が足りないと思っていたことが、実は方法が合っていなかっただけかもしれません。
時間が足りないと思っていたことが、実は行動の機会を逃していただけかもしれません。
必要なフィードバックが不足し、やみくもに進んでいただけかもしれません。


つづく…。


やってのける:第7章

ひきつづき、ハイディ・グラント・ハルバーソン著『やってのける:意志力を使わずに自分を動かす』を紹介します。原題は、“SUCCEED:How We Can Reach Our Goals” です。直訳すれば、「成功:目標を達成する方法」です。

第7章 背中を押す-人を動かす科学

この章では、他人への目標設定についてアドバイスします。他人に各種の目標選択を促す方法を学びます。合図を効果的に用いることで、相手が高いモチベーションをもって目標をめざすようになります。

「自分で管理している感覚」を与える
相手に「自分で目標を選択し、主体的にかかわっている」というコントロールの感覚を与えることは、自律性を高め、モチベーションをあげることができる一つの方法です。
方法としては、まず相手が、複数の選択肢から目標を選べるようにします。。選択肢は、多くなくてもよく二択でも効果があります。目標がすでに決まっている場合、目標への到達手段を選ばせることで、選択の感覚を与えられます。目標のタイプや到達手段を相手と一緒に選んでも、相手は選択した感覚を高めます。
常に他者と一緒に目標を設定できるとは限らないので、そんな場合、「契約」が効果を発します。目標や行動を明記した誓約書に署名します。誰であれ、禁煙の誓いや夫婦間の約束であれ、約束を破りたくありませんので、効果があります。

潜在意識に「合図」を送る
私たちの身の回りのあらゆるものが、無意識な行動の引き金になりえます。
止むことなく働き続け、あらゆるものを知覚し、顕在意識よりもはるかに多くのものごとを処理できるので、潜在意識は強力な味方です。例えば、試験でよい成績をとるという目標では、それに関連する言葉(勝利や達成、成功、などなど)を目にしたり、応援してくれる親を思い浮かべたり、本番と同じ鉛筆を使う、などでも効果があります。
目標と関係のある言葉や道具や場所などは合図になります
「倹約」という言葉が大衆ブランドを選ぶ合図になったり、野菜の直売店に立ち寄ることが健康的な生活を開始する引き金になったり、コンピュータの前に座ることが仕事の引き金になったり、するのです。ただし、本人が価値を感じている行動でなければいくら合図を用いても効果はありません

「フレーミング」で意識を変える
心理学の実験では、被験者の目標を操作するために「フレーミング」という技法を用いるそうです。人は行動する前にたいてい、無意識のうちに、それが自分にとってどんな意味や価値があるのかを考えるので、人々が日常的に行っている行為を、「フレーム(枠組み)」を提示することで意図的に作り出すのです。課題を提示し、その課題の意味を説明することで、無意識に特定の目標に向かうよう被験者に仕向けるのです。
たとえば、「それをうまく行うと得られるもの」に注目させることで獲得型の目標に、「失敗すると失うもの」に注目させることで防御型の目標に、被験者を導きます。
また、習得型のフレーミングでは、課題の目的が「価値ある技能を身につけるチャンス」「繰り返し行うことで技能が向上する」と伝えます。証明型のフレーミングでは、「成績を他者と比較する」「成績で能力(創造性、知性、運動能力)を評価する」などを伝えます。
評価の方法においても、人は他者との比較で評価されるときは証明型の目標を、課題そのものの出来や自身の進歩を評価されるときは習得型の目標を、持つ傾向にあります。
人は、何かを強制されたり誘導されたりしていると察知すると自らの意思で目標を選択したという感覚を失ってしまうので、フレーミングを活用する場合は、この点を注意しなければなりません。

見本のエピソードで「刷り込み」をする
目標は、伝染します。だから目標に向けて邁進する人の姿を見せることは、無意識の引き金となり、同じ目標に向かわせることができます。目標を追いかけているのが他人でも構いませんが、大事なのは、その人の目標がポジティブなものに見えることです。魅力のない人や魅力のない目標では効果が薄くなります。
著者らが行った実験では、一部の学生に「努力によって成長した人物」についてフレーミングを行ったところ、他の学生に比べ、習得型の目標を多く設定し、よい成績を収めたそうです
相手にめざしてもらいたいものと同じ目標を追い求めている人物やその逸話を通して、伝染力は簡単に活用できます。


つづく…。


やってのける:第6章

ひきつづき、ハイディ・グラント・ハルバーソン著『やってのける:意志力を使わずに自分を動かす』を紹介します。原題は、“SUCCEED:How We Can Reach Our Goals” です。直訳すれば、「成功:目標を達成する方法」です。

第6章 欲しいものと邪悪なもの-どんな目標も攻略できる

この章では、これまで見てきた「獲得型」と「防御型」、「証明型」と「習得型」、「何」と「なぜ」などの各種の目標を、その特性に応じて適切に選択する秘訣を学んでいきます。
何より大切なのは、目標を設定する前に、「求めているもの」と「障壁になっているもの」を明確にすることです。これから、目標における様々な条件と、その場合に選択すべき目標のタイプを示していきます。

簡単なことを達成したければ、結果を意識する
簡単な目標を達成するときに効果的なのは、具体的な結果を重視する「証明型」の目標です。
簡単な目標は才能や能力を周囲に示すチャンスなので、高い動機づけになりますし、報酬がからむとさらに動機づけは強化されます。
達成によって得られるものに注目する「獲得型」の思考も効果的です。タスクが簡単だと成功の見込みを楽観的に考え動機づけを高めます。
逆に、簡単な対象には「防御型」は適していません。成功への見込みが高まるにつれ、意欲が低下するからです。

意欲がわかないときは、理由を意識する
目標達成の意欲がわかない大きな要因の一つは、目標の不適切な設定方法です。対処法の一つは、「なぜ」を考えることです。目標を目指す理由を考えることで、目の前の小さな目標を大きな絵の中で考えるようになり、その重要性を意識しやすくなります。
行動を先延ばししないためには、「防御型」の目標が大切です。失敗したときに生じる損失を直視することで意欲が高まります。腰の重さが悩みなら、失敗したとき何を失うのかを考えれば行動力がたまります。

「難しいことをするときは、小さなステップを意識する
目標に至る道のりは険しく、ときに大きな壁にぶつかります。この時カギを握るのが、失敗から立ち直る力です。予測も回避もできない障害物が待ち構えているときはどのタイプの目標を選ぶかがとても重要になります。
こんなとき動機づけを高めるには、「具体的」な目標、つまり難しいが可能で明確に設定された目標が効果的です。
対象がが難しいときは、「何」の思考も役立ちます。すべきことを明確にし、次にとる行動に集中することで、着実に前に進みやすくなるのです。
難易度が高いと不安が生じやすくなるので、不安への対処としては、「何がえられるか」ではなく、「何を失うか」に注目する「防御型」の目標が最適です。目の前の成果よりも、長期的な成長や改善を重視する「習得型」のアプローチも有効的です。成長の度合いに注目すれば、困難にうまく対処できるようになり失敗を教訓に学ぶことができるからです。

誘惑に負けそうなときは、失うものを意識する
誘惑に負けないためには、相当の自制心を必要としますが、それに対処できる目標を選ぶことも重要です。
ここでは、目標を追い求めている理由を意識できる、「なぜ」の思考や、警戒心や危機感を高めてくれれ、「失敗によって失うもの」に注目する「防御型」の思考も忍耐力をあげてくれます。

スピードが必要な時は、得られるものを意識する、獲得型の目標にすることで、細部にはこだわらず、ミスも起こりがちですが、行動のペースは速まります。正確さが求められるときは、失敗の結果を意識する、「防御型」の目標が、時間はかかりますが、有効です。創造性が求められる時は、自発性を意識する、「獲得型」の思考が適しています。また自分で目標を設定することも効果的です。過程を楽しみたいときは、成長を意識する必要があるので、物事を「習得している」こと自体に注目したり、「自発的に」選んだ目標を立てることが有効です。
そして、幸せになるには、(基本的欲求の)三つの要素を意識することが大切です。これらは自分以外の何かを評価基準にした目標では満たせません。本当に必要なものを満たすための目標を追い求め、不要な目標に惑わされたりしてはなりません


つづく…。


やってのける:第5章

ひきつづき、ハイディ・グラント・ハルバーソン著『やってのける:意志力を使わずに自分を動かす』を紹介します。原題は、“SUCCEED:How We Can Reach Our Goals” です。直訳すれば、「成功:目標を達成する方法」です。

第5章 ただ成功してもうれしくない-満足をもたらす三つの要素

なぜうれしくないのか?
すべての目標がわたしたちを幸せにしてくれるわけではなく、目標のタイプによって、幸福感を得やすいものとそうでないものがあります。幸福感は、他人が認めた価値観や、周囲から認められることではなく、自らの自尊心を高め、内面を豊かにするような目標から得られるのです。
また目標は、達成だけがすべてではなく、何を求めているのか、なぜそれを求めているのかが大切なのです。
本章では、真の幸福をもたらす目標についてみていきます。

自分にとって本当に必要なもの
心理学はその始まり以来、「人間の基本的欲求とは何か」を考え続けてきたそうです、しかも心理学者によって、考える基本的欲求の数は様々だそうです。それでも、エドワード・デシとリチャード・ライアンが主張する「自己決定論」には、多くの心理学者が同意しています。この理論では、基本的欲求は「関係性」「有能感」「自律性」の三つであると定義します。
「関係性」は、他者と結びつき、互いに尊重し合う関係を築きたいという欲求です。人と出会う、絆を深める、社会に貢献するなどの行為は、関係性の欲求に応えます。
「有能感」は、周囲へ影響を持つことや、それによって何かを得ることに関係があります。この欲求の目的は、人生で何か成し遂げることで、技能を磨き、新しいことを学び、人間として成長する、などは有能感を満たします。
「自律性」は自由に関する欲求で、自らの行動を選び、主体的に対象と関わることを意味します。自分の特性に合った、おもしろく魅力的なことを行うときに得られる感覚です。

自分のとって本当は必要ないもの
「関係性」「有能感」「自律性」の三つの欲求を満たす目標が、永続的な幸福感をもたらしてくれます。「個人的な成長」「健康になる」「自分の欠点を受け入れる」「社会に貢献する」などなど。
「有名になる」「権力を得る」「お金を得る」などは、他者からの評価や外部のものさしを基準にして自尊心を満たそうとする目標であり、そこからは本当の幸福は得られません
しかしなぜこれらの目標を私たちは追い求めるのでしょうか?
デシとライアンによると、三つの基本的な欲求が満たされていないとき、これらの皮相的な目標を追い求めるそうです。他者との有意義な関係がない、正しいことを行えない、選択の自由がない、などの状況下で、ある種の防御手段として、人は富や名声に目を向けることがあるのです。

「自発的に行動している」感覚が成功率を上げる
著者の甥は、読書好きでしたが、読書が学校からの宿題となるや、自ら本を手に取ろとしなくなったそうです、
目標を自ら選ぶことで、「内発的動機づけ」と呼ばれる、賞罰に依存しない動機づけが生じます。それによって、楽しさや好奇心や創造性などが高まり、また簡単にあきらめなくなり、パフォーマンスも向上します。
内発的動機づけは、自らの意思で目標を選択していると感じるだけでも生じ、その状況では自律性も高まります。年齢や置かれた状況は関係ありません。教育の現場でも、健康管理プログラムや禁煙プログラムやアルコール依存症の治療でも効果があります。

やる気を奪う「ごほうび」の与え方
自律性を重んじる教師に教わっている生徒の方が中退せず、成績が良く、創造性が豊かで、チャレンジ精神があります。自律性を妨げられると、もともと学ぶことが好きな生徒も学ぶ意欲を低下させます。3歳から5歳までの未就学児を対象にマーカーペンなどで遊ばせ、うまく描けたらごほうびをあげることを一部の子どもに伝えたところ、その子らは他の子よりも長時間マーカーペンを使って遊んだそうですが、このごほうびをもらった子供たちは、数週間後、ごほうびがなければマーカーペンにまったく興味を示さなくなったそうです。ごほうびをもらわなかった子供たちは、前回と同じように自発的に遊んでいたそうです。

こうすると、自分から勉強したくなる
目標や行動をいつも自分の意思で選択できるとは限りませんし、学生や従業員や子供はときには他者からの指示を必要とします。内発低動機づけを損なわず、選択の感覚を与えながら他者への目標を設定するにはどうすればいいのでしょうか?
選択肢が多くなくても、選択できる内容の違いがわずかしかなくても、選択しているという感覚を与えるだけでも効果があるそうです。
心理学者のダイアナ・コルドヴァらは実験で、学習内容を選ぶことができないパソコン用の算数学習ゲームを生徒に与え、一部の生徒には自分を表すアイコンを自分で選び、宇宙船の名前を選択できるなど、学習とは無関係の部分を選択できるようにしました。実験の結果、自分で選択をできた生徒の方が、ゲームを楽しみ、休み時間もプレーを続けるという傾向を示しましたし、内容が良く理解できたし、難易度の高いゲームもしたいと答えました。

与えられた目標を「自分の目標」に変える
人に目標を与える際に、選択の感覚と自律性を持たせることで、相手がその目標を自分自身のものとして自然に受け入れるようになることを、心理学では「内面化」と言います。これは、外的な規範や要求を自らにとって価値があるものとして受け入れることを意味します。
基本的欲求が満たされると内面化が促され、目標が内面化されると創造性や優れた成果や仕事への意欲などがえられ、心の健康が保たれ幸福感も高まります。
自律性は独立心やわがままと混同されることもありますが、真の自律性とは、明確な意思と責任をもって誠実に選択することで、行動には自分の信念と価値観が反映されます。他者とのつながりや思いやりの心や協力的な態度と対立するものではなく、他者とともに目指したり他者を支援する、目標も自分自身の目標ととらえることができ、この種の目標は最大の幸福感をもたらしてくれます。

つづく…。


やってのける:第4章

ひきつづき、ハイディ・グラント・ハルバーソン著『やってのける:意志力を使わずに自分を動かす』を紹介します。原題は、“SUCCEED:How We Can Reach Our Goals” です。直訳すれば、「成功:目標を達成する方法」です。

第4章 楽観するか、悲観するか-勝ちパターンをつかむには

得られるものを見るか、失うものを見るか 
心理学者のトーリー・ヒギンズによれば、何かを得たい達成したいと切望する獲得型」と呼ぶ思考にフォーカスする人と、安全や危険に注目する防御型」という思考にフォーカスする人がいるそうです。
同じ目標を目指していても、どちらの思考にフォーカスしているかで大きな違いが生じます。
たとえば、同じように医者を目指す人も、獲得型は医者になることを夢見るタイプで、防御型は医者にならなければ親を失望させると心配するタイプです。獲得型は称賛によってモチベ-ションを高め困難に直面するとあきらめがちです。、防御型は批判によってモチベ-ションを高め、困難に直面しても簡単にはあきらめません。学校では、よい成績をとることを「理想」か「義務」のどちらと考えるか、などの違いが出ます。どちらのタイプにも長所と短所があります。

自分の「モチベーション」を高めるものを知る
あなたがどちらのタイプなのかチェックしましょう。次の質問に、文章でなく単語で答えてください。心に浮かんだ単語をなるべく早く一つ書いてみて下さい。

Q1  人間の資質や特徴について、自分にあったらいいと思うものは何ですか?
Q2  人間の資質や特徴について、自分になくてはならないと思うものは何ですか?
Q3     自分にあったらいいと思う資質や特徴をもう一つ書いてください。
Q4  自分になければならないと思う人間の資質や特徴をもう一つ書いてください。
Q5  Q3にもう一度答えてください。
Q6  Q4にもう一度答えてください。
Q7  Q3にもう一度答えてください。
Q8  Q4にもう一度答えてください。

たいていの人は三つ目以降はなかなか出てきません。「あったらいいの」答えがすぐ浮かんだ人は獲得型の傾向が、「なくてはならない」の答えがすぐに浮かんだ人は防御型の傾向があります。

「愛」と「安全」を求めてしまう
人間は、愛されたいという欲求と、安全を確保したいという欲求、という二つの欲求を持つそうです。ヒギンズによれば、「何かを成し遂げる」「理想的な能力を身につける」という獲得型の目標は、究極的には愛情を得るためのもので、「責任を果たし、ミスを避ける」という防御型の目標を追求するのは、究極的には自分の身を守るためのものです。人から求められることをしていると誰からも腹を立てられることはないし、失敗しない限り平和で安全です。
獲得モードにあるとき、私たちは、愛や称賛や報酬などポジティブなもので人生を満たそうとし、防御モードにいるとき、危険や処罰や痛みネガティブなものを人生から排除しようとします。

子どものタイプを決める「ほめ方・叱り方」
研究によれば、わたしたちがどちらかのフォーカスに偏る理由の一つが育てられ方(親からの報酬と罰の与えられ方)であることがわかっています。
獲得型の子育てでは、子どもが正しいことをするときに称賛や愛情を与え、悪いことをするときに称賛や愛情を保留するというアプローチをとります。これによって、子どもは親の承認と愛を得ることを目標にし、やがて勝者がすべてを得ると考えるようになります。防御型の子育てでは、悪いことをした子供を罰し、正しいことをした子供に罰を与えないというアプローチをとります。これによって、子どもは、損失を避け、悪いことが起きないようにすることを目標にし、やがて安全こそが重要と考えるようになります。
フォーカスの違いは文化的な違いも関係しており、自立が重んじられている西洋では獲得型の目標が、相手との関係が重んじられている東洋では防御型の目標が、重視されます。
フォーカスはまた、その場の状況や、目標それ自体の特性によって決まることもあります。たとえば、チームスポーツでは、「味方のピンチを救うのが自分の責任」「チームに迷惑をかけるのは避ける」などの防御型にフォーカスしがちです。

悲観が「成功のカギ」になるタイプ
獲得型のモチベーションは「切望」なので、その意欲は、ポジティブなフィードバックによって高まります。つまり成功の見込みが高いと感じると、やる気や自信がわいてきます。逆にネガティブなフィードバックは意欲を低下させます。
防御型のモチベーションは「警戒」なので、ネガティブなフィードバックによって高まります。

「成功するパターン」を頭に入れておく
あなたが過去にどちらのフォーカスによって成功を得てきたかを見てみましょう。次に質問に当てはまる度合いを数字で答えて下さい。「まったく当てはまらない」を1、「良くあてはまる」を5、というように5段階で評価してください。

Q1 懸命に頑張って何かを成し遂げることが多かった
Q2 子供のころは、親が定めた規則に従っていた。
Q3 新しく始めたことを、うまくできる方である。
Q4 人生で成功するために積極的に行動してきた。
Q5 子供の頃、親が許可しないことはしないようにしていた。
Q6 慎重に行動しないと、失敗することがある。

「獲得型」のスコア:質問1,3,4、の得点の合計
「防御型」のスコア:質問2,5,6、の得点の合計

私たちが楽観的な思考をする理由の一つは、過去の成功体験によって生まれる自信です。上の質問は、獲得型または防御型の目標で過去にどれくらい成功したかを測るために、ヒギンズが作成したものです。一見どちらの成功体験も楽観的な思考に結びつくと思われるかもしれませんが、防御型の目標のためには、楽観主義を抑える必要があります。防御型タイプは、成功体験についての幸福イメージは高いものの、自分の能力についてポジティブなイメージを持つことには消極的で、高い自己イメージを危険なものと見なしていて、悲観主義のアプローチをとります。心理学者のジュリー・ノーレムによれば、この悲観主義は、単なる鵜悲観主義でなく、物事が良くない方向に行くことを想定し、成功の期待を低くすることで、非現実主義的な甘い見込みを消し去るものです。

「落伍者の話」でモチベーションが上がる
防御型の人には最悪の事態を思い浮かべることが強い動機づけになるので、この人たちのモチベーションを高めるために、リスクを恐れずに成功した人物の話をすることは逆効果になることがあります。ある調査では、獲得志向型の学生が、ポジティブなロールモデルの話によってモチベーションを高めたのに対して、防御志向型の学生は、ネガティブなロールモデルによってモチベーションを高めていたことがわかりました。
世の中、ヒーローの話に触発される人もいれば、戒めとなるような失敗者の話を聞いて動機づけになる人もいるということです。
モチベーションやパフォーマンスを上げるには、目標の特性の理解が極めて大切なのです。

うまくいったと大喜びするか、ほっとするか
獲得と防御のどちらに注目するかは、買い物などの日常的な行動にも影響しています。
ある実験では、獲得志向は「最先端」「数多くの機能」などの宣伝に興味示しましたが、防御志向は「長年の実績を誇る」「消費者テストで安全性を確認」などの宣伝を好みました。
目標を達成したときに味わう気持ちも、フォーカスによって変わります。獲得型は、幸福感や喜びや興奮などの高揚した気分を感じ、防御型は、満足感や安心感など安らいだ気分を感じます。この違いは、物事がうまく進まないときに生じる感情にも当てはまります。獲得型は、失敗すると、落胆や悲しみなどの感情を味わいやすく、無気力になるなどの鬱々した気分になり、防御型は、不安やパニックや緊張などの、わたしたちを行動に駆り立てるマイナスの感情を生じさせます。

フォーカスに適した「戦略」を選ぶ
心理学には、「信号検出理論」と呼ばれる理論があるそうです。鹿狩りを例に考えると、鹿がいて銃を撃った場合「正答」、撃ったのに鹿がいなかった場合「誤答」、撃たず鹿がいた場合「機会損失」、撃たず鹿もおらずは「正棄却」とします。
獲得型の目標で重視されるのは、「正答」で、もっとも避けるべきは「機会損失」です。だから鹿がいると思えば、撃つのです。これを「リスク選好」と言います。
一方、防御志向型は用心深いという特徴があり、「誤答」を最も嫌がり、確実に鹿が目の前に現れるまで撃ちません。これを「リスク回避」といいます。
獲得型の「リスク志向」と、防御型の「リスク回避」は、さまざまな場面で違いを示します。
防御型の人は、一つの対象と長く向き合う傾向があります。物事を先延ばししがちな獲得型と比べ、迅速かつ事前に行動しようとする特徴もあります。
獲得型の人は、探索的で抽象的な思考を好み、アイデアを思い浮かべ、多くの選択肢から理想的な方法を見つけるという創造的なプロセスを得意とします。防御型にとってこのような抽象的思考や想像力は、無駄や浪費に映ります。危険を避けるために何より、行動を重視します。防御型には、目標達成の道のりの細かなステップや進捗状況をよく把握しているという特徴もあります。

「いい方法」で進んでいると感じながら続ける
獲得型の目標には(リスクを厭わない)獲得型のアプローチを、防御型の目標には(慎重な)防御型のアプローチを、それぞれとることで動機づけを高めやすくなります。ヒギンズによりますと、最適なアプローチを取ることは目標が達成しやすいだけでなく、「正しいことをやっている」という感覚を得られるので、到達までの道のりも楽しみやすくなります。

「防御型」は邪魔されたほうが頑張れる
ものごとをなすとき、「速さと正確さにはトレードオフという現象」が生じます。
獲得型は正確さより速さを好み、防御型は正確さを好みます。
また、獲得型は短期間にモチベーションを高め、、防御型は長期にモチベーションを持続させます。だから、難しい目標に取り組む際には、まず獲得型のアプローチをとり、次に防御型のアプローチをとることを勧めることができます。
防御型は、障害物に敏感で、集中力を妨げるものがあるほうがむしろ集中力を高める場合があります。集中力を妨げられた防御型の人が、妨げられなかった防御型の人よりも良い成果を出したという実験もあるそうです。


つづく…。


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