ひきつづき、ターシュ・ユーリック著『insight(インサイト)-いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』を紹介します。

第10章 思い込みにとらわれた世界で生き抜き成長する④


今回は、自己認識を生涯を通じて実践し、磨いていくことに焦点をあてた内容になっています。

生涯をかけての旅と、ところどころしか光っていない斧
著者はまず、煤に覆われた斧を砥石で磨き、表面を光輝くようにしようとする男の話から始めています。男は、最初斧全体を光らせようとして、鍛冶屋に頼みそれを手伝いますが、すぐにいやになり、「ところどころ光っている斧が一番いいんだ」と自分に言い聞かせるように言って立ち去るのです。これはベンジャミン・フランクリンが記したエピソードだそうですが、自己認識と自己改善という二つの目標が現実には案外難しいこと示しています。

生涯を通じて自己認識を求めていくのは、果てしなく、途方もなく、厄介なことで、障害物や困難にぶつかり、なすべきことの多さに怯んでしまうかもしれません。しかし逆に、自己認識には真の意味での「終わり」がないことがその旅を極めて魅力的なものにしてもいます。
自己認識とは、充実した人生にとって必要条件ではありますが、
十分条件ではなく、別の言い方をすると、インサイトは、役立てない限り無駄なものです。前回まで既にみてきた自己認識の高い人々は、自己認識を手にしようと取り組んでいるだけではなく、手にした認識にもとづいて行動し、みごとに活用しています。確かにやるべきことは多く、身動きが取れないように感じることでしょうが、フランクリンが13の徳を身につけようとしてすべてに取り組みましたがうまくいかず、そこで戦略を変え一度に一つの徳に集中することにしました。
フランクリンは、このことを茂った庭の草むしりにたとえています。歩き回って手あたり次第草を抜き始めても、あまり前進している感覚は持てないが、その代わりに一度につき花壇一つに取り組めば、あっという間に景色が良くなっているのに驚くというものです。彼は自分の道徳的目標の完成には至らなかったことを認めつつ、「かような試みをやらなかった場合に比べて、人間もよくなり幸福にもなった」といったそうです。

著者は、自己認識に役立つシンプルなエクササイズである、七日間インサイトチャレンジをつくりました。一日ひとつの要素に焦点をあてるもので、以下で見ていきます。

一日目ー自分の自己認識圏を選択する
自分にとって最も重要な生活圏を三つあげる。たとえば、職場、学校、子育て、結婚生活、友人、コミュニティ、信仰、慈善活動、等々。
1 各生活圏において、成功とはどのような状態を指すか、次の「魔法の問い」を使って何行か書いてみよう。明日目を覚ますと、その生活圏すべてが完璧な近い状態になっているとして、それはどんな状態?
2 それから、自分の成功の定義を用いて、今どれくらい満足しているかを、一から一〇までの十段階で評価しよう。

自己認識に向けた最大のチャンスは、自分が希望よりも満足していない場所にあります。一番向上させたい一つか二つの生活圏にしるしをつけましょう。何が自分のもう成功を阻んでいて、成功のために何を変えられるか考えてみましょう。

二日目ー七つの柱を検証する
信頼できる友人、家族、あるいは同僚を見つけ、一緒にインサイトの七つの柱について確認しましょう。それぞれの柱に対して、自分の考えを語って、それから相手があなたをどう見ているか尋ねてみましょう。たとえば、あなたの価値観はどんなもので、相手はあなたの価値観どんなものだと考えているのでしょうか? 話し合ったあと、自分についての自分の答えと相手の答えの相違点を見ていきましょう。このエクササイズから、どんなことを学びましたか? その学びをもとにどうやって前進していきます?
七つの柱(詳しくわ第2章参照)
1価値観 2情熱 3願望 4フィット 5パターン 6リアクション 7インパクト

三日目ー障壁を知る
自分の人生で生じているのではないかと思う自己認識に向けた障壁を一つか二つ選ぶ。たとえば、第3,4章で見た、「認識の盲点」「感情の盲点」「行動の盲点」「自分教というカルト」「フィール・グッド効果」「セルフィ―症候群」などの障壁。次の24時間で、それらの障壁がリアルタイムで立ち現れている瞬間を特定してみましょう。自分の行動や前提を疑ってみてもいいし、他人の中にそうした障壁が現れているのを観察してもいいでしょう。一日の終わりに、自分が学んだことを振り返り、本書で読んだ戦略をどう活かせば、自分の考えや行動を変えられるかえよう。
おまけ:次の24時間で、自分がどれくらい自分のことに集中していて、またどれくらい他人に関心を持っているかに注目してみましょう。自分の写真を投稿するときや、仕事の成果をパーティで話すとき、「それをして自分は何を達成したいと願っている?」と自分に問いかけましょう。

四日目ー内的自己認識を強化する
以下の内的自己認識ツールから一つ選んで、今日一日実践しましょう。一日の終わりに、時間をとって成果を振り返り、自分について学んだことや、このインサイトを活用してどう先へ進むか考えましょう。
1 なぜではなく何を(第5章を参考に)
例えば、なぜ「嫌いか好きか」より、何を「嫌いか好きか」を考える。

2 比較と対比(第6章を参考に)
比較や対比をするとき、これまでの自分の経験や行動や感情の中で共通する点や異なる点を探します。

3 リフレーミング(第6章を参考に)
自分の状況や行動や関係を違った角度から眺めましょう。

4 一時停止
(第5章を参考に)
問題に少し距離をとって、気晴らしを探します。


5 思考停止
(第5章を参考に)
いったん決断したら、決断の良し悪しではなく、前進し決断の結果と向き合うのです。


6 事実確認
(第5章を参考に)
肯定的意見であれ批判的意見であれ、客観的証拠を探しましょう。

7 ソリューション・マイニング
(第6章を参考に)
難題に当たったときには解決策に焦点をあてることを意識しましょう。


以下、
五日目ー外的自己認識を強化する
六日目ー思い込みにとらわれた人に対処する
七日目ー評価
は次回へ


つづく…。