ひきつづき、ハイディ・グラント・ハルバーソン著『やってのける:意志力を使わずに自分を動かす』を紹介します。原題は、“SUCCEED:How We Can Reach Our Goals” です。直訳すれば、「成功:目標を達成する方法」です。

第4章 楽観するか、悲観するか-勝ちパターンをつかむには

得られるものを見るか、失うものを見るか 
心理学者のトーリー・ヒギンズによれば、何かを得たい達成したいと切望する獲得型」と呼ぶ思考にフォーカスする人と、安全や危険に注目する防御型」という思考にフォーカスする人がいるそうです。
同じ目標を目指していても、どちらの思考にフォーカスしているかで大きな違いが生じます。
たとえば、同じように医者を目指す人も、獲得型は医者になることを夢見るタイプで、防御型は医者にならなければ親を失望させると心配するタイプです。獲得型は称賛によってモチベ-ションを高め困難に直面するとあきらめがちです。、防御型は批判によってモチベ-ションを高め、困難に直面しても簡単にはあきらめません。学校では、よい成績をとることを「理想」か「義務」のどちらと考えるか、などの違いが出ます。どちらのタイプにも長所と短所があります。

自分の「モチベーション」を高めるものを知る
あなたがどちらのタイプなのかチェックしましょう。次の質問に、文章でなく単語で答えてください。心に浮かんだ単語をなるべく早く一つ書いてみて下さい。

Q1  人間の資質や特徴について、自分にあったらいいと思うものは何ですか?
Q2  人間の資質や特徴について、自分になくてはならないと思うものは何ですか?
Q3     自分にあったらいいと思う資質や特徴をもう一つ書いてください。
Q4  自分になければならないと思う人間の資質や特徴をもう一つ書いてください。
Q5  Q3にもう一度答えてください。
Q6  Q4にもう一度答えてください。
Q7  Q3にもう一度答えてください。
Q8  Q4にもう一度答えてください。

たいていの人は三つ目以降はなかなか出てきません。「あったらいいの」答えがすぐ浮かんだ人は獲得型の傾向が、「なくてはならない」の答えがすぐに浮かんだ人は防御型の傾向があります。

「愛」と「安全」を求めてしまう
人間は、愛されたいという欲求と、安全を確保したいという欲求、という二つの欲求を持つそうです。ヒギンズによれば、「何かを成し遂げる」「理想的な能力を身につける」という獲得型の目標は、究極的には愛情を得るためのもので、「責任を果たし、ミスを避ける」という防御型の目標を追求するのは、究極的には自分の身を守るためのものです。人から求められることをしていると誰からも腹を立てられることはないし、失敗しない限り平和で安全です。
獲得モードにあるとき、私たちは、愛や称賛や報酬などポジティブなもので人生を満たそうとし、防御モードにいるとき、危険や処罰や痛みネガティブなものを人生から排除しようとします。

子どものタイプを決める「ほめ方・叱り方」
研究によれば、わたしたちがどちらかのフォーカスに偏る理由の一つが育てられ方(親からの報酬と罰の与えられ方)であることがわかっています。
獲得型の子育てでは、子どもが正しいことをするときに称賛や愛情を与え、悪いことをするときに称賛や愛情を保留するというアプローチをとります。これによって、子どもは親の承認と愛を得ることを目標にし、やがて勝者がすべてを得ると考えるようになります。防御型の子育てでは、悪いことをした子供を罰し、正しいことをした子供に罰を与えないというアプローチをとります。これによって、子どもは、損失を避け、悪いことが起きないようにすることを目標にし、やがて安全こそが重要と考えるようになります。
フォーカスの違いは文化的な違いも関係しており、自立が重んじられている西洋では獲得型の目標が、相手との関係が重んじられている東洋では防御型の目標が、重視されます。
フォーカスはまた、その場の状況や、目標それ自体の特性によって決まることもあります。たとえば、チームスポーツでは、「味方のピンチを救うのが自分の責任」「チームに迷惑をかけるのは避ける」などの防御型にフォーカスしがちです。

悲観が「成功のカギ」になるタイプ
獲得型のモチベーションは「切望」なので、その意欲は、ポジティブなフィードバックによって高まります。つまり成功の見込みが高いと感じると、やる気や自信がわいてきます。逆にネガティブなフィードバックは意欲を低下させます。
防御型のモチベーションは「警戒」なので、ネガティブなフィードバックによって高まります。

「成功するパターン」を頭に入れておく
あなたが過去にどちらのフォーカスによって成功を得てきたかを見てみましょう。次に質問に当てはまる度合いを数字で答えて下さい。「まったく当てはまらない」を1、「良くあてはまる」を5、というように5段階で評価してください。

Q1 懸命に頑張って何かを成し遂げることが多かった
Q2 子供のころは、親が定めた規則に従っていた。
Q3 新しく始めたことを、うまくできる方である。
Q4 人生で成功するために積極的に行動してきた。
Q5 子供の頃、親が許可しないことはしないようにしていた。
Q6 慎重に行動しないと、失敗することがある。

「獲得型」のスコア:質問1,3,4、の得点の合計
「防御型」のスコア:質問2,5,6、の得点の合計

私たちが楽観的な思考をする理由の一つは、過去の成功体験によって生まれる自信です。上の質問は、獲得型または防御型の目標で過去にどれくらい成功したかを測るために、ヒギンズが作成したものです。一見どちらの成功体験も楽観的な思考に結びつくと思われるかもしれませんが、防御型の目標のためには、楽観主義を抑える必要があります。防御型タイプは、成功体験についての幸福イメージは高いものの、自分の能力についてポジティブなイメージを持つことには消極的で、高い自己イメージを危険なものと見なしていて、悲観主義のアプローチをとります。心理学者のジュリー・ノーレムによれば、この悲観主義は、単なる鵜悲観主義でなく、物事が良くない方向に行くことを想定し、成功の期待を低くすることで、非現実主義的な甘い見込みを消し去るものです。

「落伍者の話」でモチベーションが上がる
防御型の人には最悪の事態を思い浮かべることが強い動機づけになるので、この人たちのモチベーションを高めるために、リスクを恐れずに成功した人物の話をすることは逆効果になることがあります。ある調査では、獲得志向型の学生が、ポジティブなロールモデルの話によってモチベーションを高めたのに対して、防御志向型の学生は、ネガティブなロールモデルによってモチベーションを高めていたことがわかりました。
世の中、ヒーローの話に触発される人もいれば、戒めとなるような失敗者の話を聞いて動機づけになる人もいるということです。
モチベーションやパフォーマンスを上げるには、目標の特性の理解が極めて大切なのです。

うまくいったと大喜びするか、ほっとするか
獲得と防御のどちらに注目するかは、買い物などの日常的な行動にも影響しています。
ある実験では、獲得志向は「最先端」「数多くの機能」などの宣伝に興味示しましたが、防御志向は「長年の実績を誇る」「消費者テストで安全性を確認」などの宣伝を好みました。
目標を達成したときに味わう気持ちも、フォーカスによって変わります。獲得型は、幸福感や喜びや興奮などの高揚した気分を感じ、防御型は、満足感や安心感など安らいだ気分を感じます。この違いは、物事がうまく進まないときに生じる感情にも当てはまります。獲得型は、失敗すると、落胆や悲しみなどの感情を味わいやすく、無気力になるなどの鬱々した気分になり、防御型は、不安やパニックや緊張などの、わたしたちを行動に駆り立てるマイナスの感情を生じさせます。

フォーカスに適した「戦略」を選ぶ
心理学には、「信号検出理論」と呼ばれる理論があるそうです。鹿狩りを例に考えると、鹿がいて銃を撃った場合「正答」、撃ったのに鹿がいなかった場合「誤答」、撃たず鹿がいた場合「機会損失」、撃たず鹿もおらずは「正棄却」とします。
獲得型の目標で重視されるのは、「正答」で、もっとも避けるべきは「機会損失」です。だから鹿がいると思えば、撃つのです。これを「リスク選好」と言います。
一方、防御志向型は用心深いという特徴があり、「誤答」を最も嫌がり、確実に鹿が目の前に現れるまで撃ちません。これを「リスク回避」といいます。
獲得型の「リスク志向」と、防御型の「リスク回避」は、さまざまな場面で違いを示します。
防御型の人は、一つの対象と長く向き合う傾向があります。物事を先延ばししがちな獲得型と比べ、迅速かつ事前に行動しようとする特徴もあります。
獲得型の人は、探索的で抽象的な思考を好み、アイデアを思い浮かべ、多くの選択肢から理想的な方法を見つけるという創造的なプロセスを得意とします。防御型にとってこのような抽象的思考や想像力は、無駄や浪費に映ります。危険を避けるために何より、行動を重視します。防御型には、目標達成の道のりの細かなステップや進捗状況をよく把握しているという特徴もあります。

「いい方法」で進んでいると感じながら続ける
獲得型の目標には(リスクを厭わない)獲得型のアプローチを、防御型の目標には(慎重な)防御型のアプローチを、それぞれとることで動機づけを高めやすくなります。ヒギンズによりますと、最適なアプローチを取ることは目標が達成しやすいだけでなく、「正しいことをやっている」という感覚を得られるので、到達までの道のりも楽しみやすくなります。

「防御型」は邪魔されたほうが頑張れる
ものごとをなすとき、「速さと正確さにはトレードオフという現象」が生じます。
獲得型は正確さより速さを好み、防御型は正確さを好みます。
また、獲得型は短期間にモチベーションを高め、、防御型は長期にモチベーションを持続させます。だから、難しい目標に取り組む際には、まず獲得型のアプローチをとり、次に防御型のアプローチをとることを勧めることができます。
防御型は、障害物に敏感で、集中力を妨げるものがあるほうがむしろ集中力を高める場合があります。集中力を妨げられた防御型の人が、妨げられなかった防御型の人よりも良い成果を出したという実験もあるそうです。


つづく…。