ひきつづき、ロルフ・ドベリ著『Think clearly』を紹介します。

39.「心の引き算」をしようー自分の幸せに気づくための戦略

・映画「素晴らしき哉、人生!」が教えてくれること
1946年に公開された『素晴らしき哉、人生!』にはこんなシーンがあります。
アメリカの小さな町、ベッドフォード・フォールズで、貯蓄貸付組合を
経営するベイリーは、妻と四人の子供と暮らす非の打ちどころのない人
物でしたが、叔父が組合の資金を紛失してしまい、今や倒産の危機に直
面し自殺を図ろうとしています。
ベイリーは橋の上に立って川に身を投げようとしますが、そのとき一人
の老人が川に落ちて彼に助けを求めました。
ベイリーが老人を助けると、その老人は自分は天使だと言いますが、ベ
イリーは信じません。
そしてベイリーが「この世に生まれてこなければよかった」と口にする
と、その天使はベイリーの願いをかなえて、ベイリーがいない町の惨憺
たる情景をベイリーに見せます。その町は強欲な賃貸業者の力がはびこ
り、ひどい有様でした。
ベイリーは、クリスマスの夜に現実世界に戻り、鬱々とした気分から解
放され、自分の人生が素晴らしかったと気づき、生きる喜びを感じ、笑
顔で街を走り抜けました。

この映画は長い間クリスマス映画の古典的名作の一つに数えられてきましたが、著者いわく、この映画で天使が用いた精神的戦略は、まだ古典と言えるほどには定着していないそうです。心理学者が「心の引き算」と呼ぶ戦略です。


・「その状況」では、どれくらい幸せを感じるか?
あなたは人生全般にどのくらい幸せを感じているのでしょうか?
10段階で評価しましょう。
それができたら、次の段階を読み進めましょう(次の段階だけです。)。
読み終わったら、その段階に書かれていた指示通りのことをします。

目を閉じて、あなたが右手を失ったと想像してみましょう
それでどう生活するのでしょう?

それなのに今度は、左手まで失ってしまいました。もう手がないのです。どう感じるでしょう?

今度は視力まで失ってしまいます。あなたはどんな気持ちがするでしょう?

ここで目を開け、これら三つの状況を一通り頭に思い描き、「感じて」から、先へ進みます。
これらの状況を想像すると、あなたは、人生にどのくらい幸せを感じるでしょうか?
10段階で評価しましょう。大多数の人と同じなら、あなたの幸福度は前より上昇したはずです。
著者は、初めてこれらの状況を想像した時、急激に気分が上昇したそうです。「心の引き算」の劇的な効果だそうです。
幸福度を上げるために、必ずしも腕や視力をなくした自分を想像する必要はなく、パートナーと会っていなかったらとか、子供を事故で亡くしたらとか、戦争中に塹壕に立っていたらとか、を想像してもいいそうです。
大事なのは、抽象的に考えをめぐらせるのではなく、その状況に入り込んでみることだそうです。


・宝くじが当たっても「六か月」で幸福感は消滅する
「10.」で著者が教えてくれたように、人生における幸運に対して、私たちが持つべきは、「感謝」の気持ちです。
しかし感謝するにも、「誰に」感謝すればいいのかという問題と、「慣れ」の問題があるそうです。
「慣れ」は、不幸に見舞われた時に役立ちます。不幸にはじき慣れてしまうので、悲しみが思うほど長く続かないのです。これは「心理的免疫システム」と呼ばれています。
困ったことに、この「心理的免疫システム」は、人生で起こる素晴らしい出来事に対しても作用します。宝くじに当たろうと、子供が生まれようと、新しい家を買おうとも、最初に感じた幸せは「慣れ」によって消えてしまうのです。
感謝の気持ちの維持は、「慣れ」との戦いになりますので、人生の
素晴らしい面を強調して際立たせなければ感謝の気持ちは続きません

残念ながら、そんな精神的な強調にすら、我々は慣れてしまうのだそうです。
「ポジティブな面を意識することで得られる幸福感」についても同じように慣れるのだそうです。


・「銀メダリスト」の幸福度が低いのはなぜか?
感謝の気持ちを維持する際の難点である、感謝を向ける「相手」と「慣れ」ですが、これらに関しては、良い知らせがあるそうです。「心の引き算」は、これらの難点とは無縁なのです。
「心の引き算」は脳に非常に大きな興奮を与えるため、慣れるということはないのです。
人生で起きた素晴らしいことをただ考えるより、「心の引き算」
のほうが幸福度を上げる効果がはるかに高いのです。

これは様々な研究で証明されていますし、ストア派の学者も2000年も前に次のように述べているそうです。
まだ持っていないものについて考えるよりも、今持っているものを持てて
いなかった場合、どのくらい困っていたかについて考えたほうがいい
」。

銀メダルを獲得した時と、銅メダルを獲得したとき、どちらの幸福度が高いでしょうか?
銀メダルと考えるかもしれませんが、1992年のバルセロナオリンピック開催中の調査研究の結果は逆でした。
どうしてでしょうか?
銀メダリストは、自分を金メダリストと比較し、銅メダリストは
自分をメダルに届かなかった選手と比較したからだ
そうです。
彼らが「心の引き算」をしていたら、違った結果だったでしょう。
私たちはたいてい、自分が手にしている幸せには気づかない」と、心理学者のポール・ドーランは書いています。



つづく…。